それでも、イェール大学基金の勝ちは勝ち

それでも、イェール大学基金の勝ちは勝ち

アイビーリーグで最初に発表された前回のレポート(ペンシルバニア大学の2022年度は0%リターン)は、2つの大きなテーマを提起しました。第一は、今年はプライベートアセット (Private Equity、Real Estate、Natural Resources)に投資するのに非常に良い年であったこと。第二は、最高責任者であるCIOが、パブリックアセット(株式およびヘッジファンド)からはもはや得られないリターンを求めて、プライベート・エクイティに移行し続けていることです。

ペンシルベニア大学の場合は、我々の定量的予測(基金の年次リターンから推測)によると、プライベート・エクイティのリターンが2.67%で、天然資源と不動産がそれに続き、ヘッジファンドの-2.84%と米国株式の-1.95%のマイナスをカバーし、リターンは完全なゼロリターンとなりました。

そして今回、イェール大学は同じようなストーリーを報告していますが、少しばかりハッピーエンドでした。414 億ドルのイェール大学基金は、力強いプライベートアセット (Private Equity、Real Estate、Natural Resources)のパフォーマンスと中でもプライベートエクイティへのエクスポージャによって、2022年度は 0.8% のリターンを記録しました。

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我々は、昨年のイェール大学の資産配分をもとに、8月の時点でイェール大学のリターンを予測しました。我々の予測値2.38%(実際は0.8%)には達成しませんでしたが、コーネル(-1.3%)、デューク(-1.5%)、ダートマス(-3.1%)などの基金と比較すると、彼らが資産配分を変更したことは良い結果を残しています。

しかしながら、1年は1年に過ぎず、大学基金は長期的な視点に立っています。イェール大学基金の CIO である Matt Mendelsohn 氏は、報告書で次のように述べています。「世界の金融市場がこのように不安定な年に、イェール大学の資産を守ることができたことを嬉しく思います」

それを言い換えれば、数パーセント良くなれば素晴らしいことで、少なくとも何かを失ったわけではないのだから。

ちなみに、イェール大学は不動産への集中力を高めればさらにうまくいったかもしれませんが、Mendelsohn氏の前任者(故David Swensen氏)は、流動性への懸念に対処するため2015年から不動産のエクスポージャを削減し始めました。さらに最近では、 2020年9月に「流動性の低い資産 (ベンチャーキャピタル、レバレッジドバイアウト、不動産、天然資源) をポートフォリオの 50% に制限しようとしている」と書いています。これが今後数年間でどのように影響するか、またはイェール大学が最近のパフォーマンスに照らしてこれらの目標を調整するのか、興味深いところであります。

次は実際に当社独自の動的スタイル分析 (DSA) と MPIスタイラスプロのシステムを使用して、大学基金投資の裏側を定量的に覗き込み、他の方法では得られない分析結果をおみせします。

以下のチャートは我々のモデルを使用して、イェール大学の年次リターンを分析し得られたアセットクラスのエクスポージャを示しています。これは414 億ドルの大学基金ポートフォリオにおいて、個々のマネージャの寄与度がすべて相殺され、大学基金のアセットアロケーションのプロキシ(代替)として見ることができます。

それによると、ここ数年、不動産離れの動きが見られイェール大学の年次公開情報と完全に一致しています。また、プライベート・エクイティやベンチャーキャピタルが増加しヘッジファンドが縮小していることも見て取れます。ただし、この後半のプライベート・エクイティの帯状の変化は、単に2021年度のリターンがヘッジファンドよりもはるかに高いリターンを記録した結果である可能性があります。

これは、ペンシルバニア大学の記事で示したものと同様のパターンであり、リターンが入手可能になるにつれて、他の多くの大学基金でも同様のことが起こると予想されます。しかし、具体的な年次の結果は大学基金が持っていたアロケーションのウェイトに起因します。前回のレポート(ペンシルバニア大学基金)でも述べたように、特に今年度は、アセットクラスのわずかなオーバーウエイトやアンダーウエイトが、プラスまたはマイナスの全体的なリターンの違いを生む可能性があります。下の図は、イェール大学の MPIスタイラスが推定したアセットクラスのエクスポージャの寄与度を示しています。

この数字を、同じカテゴリーでのペンシルベニア大学の成績と比較してみましょう。

ご覧のように、イェール大学はプライベートアセット (Private Equity、Real Estate、Natural Resources)がプラスで、同時にパブリックアセット(米株式およびヘッジファンド)でペンシルバニア大学よりもかなりの割合で損失を回避しました。結局のところ、それらがイェール大学のゴールラインを押し上げ、その年のプラスリターンをもたらしました。

もちろん、これらの結果をふまえて、彼らの学生新聞などでは、非流動資産の実際のリターンは、実勢価格よりも低い可能性があると指摘しています。しかし、これらのタイプのアセットは常にそうであります。ニューヨーク大学スターンスクールの教授 David Yermack 氏は、同じ内容を記事で次のように述べています。「これらの投資の価値をいつでも確実に知ることは困難であり、非流動資産に多額の投資をしている基金は、毎年ポートフォリオの公正な市場価値を推定しているに過ぎない」

まさにその通りです。投資家が、不透明な投資のパフォーマンスとリスクの真の要因を理解しようとするには、入手できるすべての情報が必要となるのです。我々は以前のレポートで、「プライベート・エクイティと不動産をオーバーウェイトにした場合、個別の大学基金のパフォーマンスがどのようになるかを垣間見ることができる」と述べましたが、結果はそれを物語っており、イェール大学はそのおかげでもう 1 年「勝利」の列に名を連ねることができたのです。